映画「タクシードライバー」に潜む甘い毒

今週のお題「映画の夏」

※ネタバレしてるのでご注意ください。

 

レーガン大統領暗殺未遂事件の犯人が釈放されるとのニュースを聞いて、そう言えば映画に影響を受けて起きた事件だったよなあと、初視聴。

 

事件絡みで知った作品だったので、てっきりジョディー・フォスター扮する少女娼婦がメインキャラクターなのかと思っていたら、前半に今後を示唆するような形で出てきてから、その後の出番までが長かった。

そうか。ジョディー・フォスターがメインなわけではなく、あくまでもロバート・デニーロが主人公だったよねと。

 

主人公はベトナム戦争帰りの元軍人で、戦争の後遺症なのか不眠症に悩み、時間が有効に使えるからとタクシードライバーを志願。

退廃した街を走るシーンで映し出された景色はリアル70年代。

ドラッグと性が混ざり合った夜の街を見て、主人公が何を感じたのかなあと思いを馳せても、主人公が抱える闇や感情をはっきりと語るシーンはないので、見た側がどう感じるかしかなく…。

思ったのは、この作品は日本で暑い陽射しを避けて、エアコンをかけながら涼しげに見ても理解ができない作品なんだろうなということ。(もちろん暑けりゃいいってわけでもない)

ベトナム戦争時代のアメリカという時代背景を知っていて、主人公の名前のつかない感情、心に抱えている闇を身近に感じられる人にとっては、ものすごく刺さる映画なんだと思う。

(ちなみに実際の暗殺未遂事件の犯人は、この映画の主人公へ心酔して同じような事件を起こしたわけではなく、あくまでもジョディー・フォスターに心酔して、彼女の気をひくために事件を起こしています)

 

夜と昼の対比が絶妙で、昼の明るい世界にいる女性に好意を持って近づくも、失敗して彼女には去られ、その腹いせにか、彼女が応援していた大統領候補を暗殺するために、拳銃を買ったり、体を鍛えたりと違う方向にエネルギーを費やす主人公。

いまのハリウッドなら、増強剤でも使ったのかってくらいのムッキムキに仕上がるんだろうけど、そこまではいきません。

 

面倒くさい承認欲求という感情は、多かれ少なかれみんな抱えて生きているんだと思っているけど、少女娼婦と出会って駆られた正義感のようなものは、彼がもともと持っていた正の感情なんだと思うし、彼にとっての救いだったらいいのになあと思う。

 

結果的に無理矢理(?)ハッピーエンドにした終わり方だったと思うけど、救い出されたジョディー・フォスターや、またタクシードライバーをやっているロバート・デニーロが本当に救われたのかは分からないまま。

だからこそ、見終わったあとに、視聴者に何かを残す作品になったのかもしれない。

 

毒に当てられたように見終わった後に体力を奪われていた映画。

全体的に漂う暗いテーマに添い遂げた音楽が逸脱でした。

 

Taxi Driver: Original Soundtrack Recording

Taxi Driver: Original Soundtrack Recording